海外旅行に行ったら日本円が使えないので旅行先の国の通貨(外貨)で買い物をします
同じように、貿易取引では日本円が使えないことが多いので、外貨で取引をします
日本円を外貨に両替するときには為替レートが使われますが、そのレートによって利益は変わります
利益が増えるかもしれないし減るかもしれないという「為替変動リスク」を避けるために「為替予約」がよく使われます
為替変動リスクとは?
国内取引では決済に日本円を使うので利益は変動しません
国内取引においては取引相手でも自社でも日本円を使っているので外貨で決済する必要がありません
しかし貿易取引では外貨が使われることが多いです
そのため為替レートによって利益が増減するという「為替変動リスク」が生じます
取引が外貨で行われる場合、自国通貨(日本円)を換算する必要があります
換算するときには相場(為替レート)が使われます
相場(為替レート)によって売上や仕入の金額が変わってくるので、その結果利益が増減することになるのです
例えば、商品AをUSD 100で取引する場合、相場(為替レート)が10円動くと日本円での金額も1,000円ずつ動きます
- USD 100 @110 = \11,000
- USD 100 @100 = \10,000
- USD 100 @90 = \9,000
輸出者にとっては
- 円安になればなるほど売上が増える(=利益が増える)
- 円高になればなるほど売上が減る(=利益が減る)
為替レートが110円のとき商品Aは\11,000で売れるけど、90円のときは\9,000でしか売れないので、円安に振れたほうが利益が大きくなりますね!
輸入者にとっては
- 円安になればなるほど仕入原価が増える(=利益が減る)
- 円高になればなるほど仕入原価が減る(=利益が増える)
為替レートが110円のとき商品Aは\11,000も払わないと買えないけど、90円のときは\9,000で買えるので、円高に振れたほうが利益が大きくなりますね!
為替変動リスクを避ける方法
利益が増えるか減るか分からないという不確定な状態(為替変動リスク)を避けるための方法がいくつかあります
日本円での取引
自国通貨(日本企業の場合は日本円)で取引をする方法です
自国通貨で取引すれば換算する必要がないので為替変動リスクが無くなります
どの通貨で取引をするかは契約で定めます
ただ取引相手も為替変動リスクを避けたいため、日本円で取引するのを嫌がる場合が多いです
リーズ・アンド・ラグズ
通貨換算を決済のタイミングで行うのではなく、為替相場の見通しによって意図的に早めたり(リーズ)、遅らせたり(ラグズ)することです
有利なときに換算できたら良いのですが、為替相場の動きを正確に予想するのはとても難しいです
為替マリー
入手した外貨を換算せずに保有しておき、他の取引で使用する方法です
取引規模の大きい会社でないと外貨でほぼ同額の支払(債務)と受取(債権)が同時に発生することが少ないので、どんな企業でも使える方法ではないです
ネッティング
取引相手に対して輸入(支払)・輸出(受取)の金額を相殺し、相殺しきれなかった分だけ通貨換算し決済する方法です
企業によっては一つの取引相手に対して輸入と輸出が同時に発生することが稀なので、どんな企業でも使える方法ではないです
為替予約
銀行に対して換算する金額・レートを事前に予約しておく方法です
輸出者・輸入者は「いつ」「いくら」「どの通貨で」「どのレートで」換算するのかを銀行と決めて事前に契約します
一番ポピュラーな「為替予約」
為替変動リスクを避けるのに一番よく使われるのは「為替予約」です
為替予約の相場―直物相場と先物相場―
すぐに換算するときの為替レートを「直物相場(Spot)」、為替予約をして決めた将来の換算レートを「先物相場(Foward)」と言います
為替予約のメリット
為替予約をして先物相場での換算を約束しておくと「為替相場の変動による損失(為替差損)」を回避することができます
為替予約をすると「為替相場の変動による利益(為替差益)」を得るチャンスも同時に失くすことになりますが、少なくとも為替予約時に見込んだ利益は確保することができます
例)商品AをUSD 100で売る場合
- USD 1 = \110のときにUSD 100分の為替予約をする
- 売上が\11,000で確定する(USD 100 x @110 = \11,000)
- 換算時にUSD 1 = \110 で換算する(直物相場がUSD 1 = \90だったとしても予約している為替USD 1 = \110で換算できる)
もし為替予約をしておらず、換算時に直物相場で換算するなら売上は\9,000になります(USD 100 x @90 = \9,000)
為替予約の流れ
- 銀行と外貨での取引を行うための「約定書」を差し入れる
- 銀行と為替予約スリップ(Exchange Contract Slip)を取り交わす
為替予約スリップに記載される内容例
- 予約番号
- 予約締結日
- 外貨の売り手
- 外貨の買い手
- 通貨単位(USD, EUR, CNHなど)
- 予約金額
- 相場種類(TTB or TTS)※TTB・TTSについては後述します
- 予約相場(USD 1 = \100、など)
- 受渡期日(貿易取引の場合ははっきりと時期が決まっていないことが多いので1か月くらいの幅を持たせることが多いです)
- 輸出者or輸入者のサイン
- 銀行のサイン
- 予約金額の受渡実績(受渡期日内でいっきにまとめて換算するのではなく複数回に分けて換算するときは過去の記録(実行日・実績額)と残高が記載されます)
為替予約スリップに記載される”NO MARGIN ALLOWED”とは?
為替予約スリップに”NO MARGIN ALLOWED“という文言が記載されていることがあります
これは「予約した分の金額は絶対に引き取らないといけない」という意味です
例えばUSD 100分の為替予約をしたら、USD 100は絶対に換算しなくてはなりません
主に製造業や原料取引などで、契約した数量とピッタリ完全一致で出荷することが難しい貨物があります
そのような貨物は5%~10%程度の過不足を容認する文言が契約に含まれていることがあります
その場合は為替予約を多めにしてしまうと、出荷が減ったときに外貨が余ってしまう可能性があるので注意が必要です
外貨余りを避けるために、たいていは少なめで為替予約をしておき、不足分だけ追加でスポットで換算することが多いです
例)
- 「数量1,000kg(USD 1,000)プラスマイナス5%~10%」で契約する
- 為替予約は900kg分(USD 900)で予約しておく
- 最終1,050kgで出荷した
- 900kg分(USD 900)は予約した為替を使って換算し、残り150kg分(USD 150)はスポットで換算する
為替相場の種類 ―貿易取引で使われる相場は?―
為替相場にはいくつか種類がありますが、貿易取引で使われるのはTTBレートかTTSレートです
為替予約をする際にも、為替予約スリップに為替相場の種類が記載されます
インターバンクレート(銀行間相場)
銀行同士で取引をするときに使われる為替レートです
ニュース等で言われるレートはこのインターバンクレート(銀行間相場)になります
銀行間で使われるレートなので、輸出者や輸入者が銀行に対して為替予約をするときにはこのレートは使いません
TTBレート(対顧客電信売相場)
銀行が企業・個人から外貨を買う(Buy)ときのレートです
輸出者が銀行に為替予約をするときにTTBレートが使われます
(輸出者は取引相手から受け取った外貨を日本円に換算します)
TTB = Telegraphic Transfer Buying Rateの略です
TTSレート(対顧客電信買相場)
銀行が企業・個人へ外貨を売る(Sell)ときのレートです
輸入者が銀行に為替予約をするときにTTSレートが使われます
(輸入者は取引相手に外貨での支払いをするために日本円を外貨へ換算します)
TTS = Telegraphic Transfer Selling Rateの略です
TTMレート(対顧客電信相場仲値)
TTBとTTSの中間値です
TTM = Telegraphic Transfer Middle Rateの略です
まとめ
貿易取引では為替相場の変動によって利益が上下します
自社にとって一番良いリスクヘッジの方法を取るために、為替予約をはじめとする為替変動リスクを避ける方法について知っておくことが大切です
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